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太宰治「斜陽」偏見感想文 生き抜く女・堕ちていく男 [読書]

最後まで貴族として生き抜いた母。
貴族を、女子大学の古い教訓を捨て、
シングルマザーとして生きる、かず子。

対照的に

貴族である自身に存在価値を見出せず、退廃的に生き
自らの命を絶った直治。
貴族へ羨望と嫉妬ゆえか、貴族出身のかず子と直治を弄びながら
自堕落に生きる上原。


冒頭


貴族生活に蛇がでてくるあたり、、、、
蛇のもつ不気味さと神々しさが
この物語全体の雰囲気を包む。


母を
最後の貴婦人と信じる、かず子と直治。
かず子と直治は、貴族としての素晴らしい母を慕うが


”直治と私と、たった二人の肉親に見守られて、

日本で最後の貴婦人だったお母様が。

お死顔は殆ど変らなかった。”



伊豆の家で結核を患い、二人を残し逝ってしまう。



直治は、出征中に再びアヘン中毒になっていた。
出征から戻ったとき
慕う母や、姉かず子は戦後のゴタゴタで財産や預金を失い
西片町の家を処分し伊豆に住まいを移していた。
貴族高等御乞食などどいい、見下していたが
母だけは、ほんものの貴族と認め慕っていた。


直治は高等学校時代にある小説家のマネをして、麻薬中毒
なった経緯があった。


直治の麻薬中毒は
結婚している姉かず子に、母に内緒でお金の融通を依頼する。
かず子は高額な金額が心配になり、
直治と親しくする小説家上原二郎を訪ね、お酒を飲み
帰り際、上原のキスを受け入れる。


結婚しているかず子に「ひめごと」ができた、、、、

この「ひめごと」がかず子の生きる原動力となっていくのだ。

離婚、流産を経て、母と同居するかず子。
弟直治が戻るまでの時間
母と、貴族として幸福の短い残り時間。

直治が戻り、直治は母から多額のお金をもらいながら、東京で
小説家上原二郎らと遊興にふける。


上原に恋心を抱くかず子は、上原に手紙を出すが、
返事はもらえなかった。


母が死ぬと、弟直治が若い女を連れて伊豆に戻ったことを機に
上京し、上原を訪ね、上原に抱かれる。

その日の朝、かず子に遺書を残し
弟直治は自らの命を絶った。


直治の夕顔日誌より

”「ママ!僕を叱ってください!」

「どういう工合いに?」

「弱虫!って」

「そう?弱虫。・・・もう、いいでしょう?」

ママには無類のよさがある。ママを思うと泣きたくなる。

ママへのおわびのためにも、死ぬんだ。”



”戦争。日本の戦争は、ヤケクソだ。

ヤケクソに巻き込まれて死ぬのはいや。いっそ、ひとりでしにたいわい。

人間は、嘘をつく時には、必ず、まじめな顔をしているのもである。

この頃の、指導者たちの、あの、まじめさ。ぷ!”



マザコンでシニカルな直治。



直治は、死にたがり屋だ。
母の死後、後を追うように自らの命を絶った。


堕落した貴族でも
母より先に逝くわけにはいかない
母を悲しませるわけにはいかない、、、、、

貴族という自分に終わり告げ
死んだ母を追う。


直治の遺書より


”姉さん

 信じてください。

 僕は、遊んでも少しも楽しくなかったのです。

 快楽のインポテンツなのかも知れません。僕はただ、貴族という

 自身の影法師から離れたくて、狂い、遊び、荒んでいました。

 姉さん。

 いったい、僕たちに罪があるのでしょうか。”




”僕は、素面で死ぬんです。

 もういちど、さようなら。

 姉さん。

 僕は貴族です。”




一方、かず子は悲しみも癒えぬまま
それでも、自らの「恋と革命」に生きる決意をする。

かず子は上原の子どもを身ごもっていた。
恋の冒険が成就したのだ。


戦争のときに徴用されて、ヨイトマケや、地下足袋をはいて、畑仕事をするあたりから、貴族を捨てても生きる、かず子の強さの芽が育ち始めていた。


かず子の決意ー本文より

”戦闘、開始。いつまでも、悲しみに沈んではおられなかった。

私には、是非とも、

闘いとらなけらばならぬものがあった。

新しい倫理。いいえ、そう言っても偽善めく恋。

それだけだ。”



新しく生まれ変わるかず子の瞬間!




そして
上原に勝利宣言、決別の手紙を書くかず子。



私が「斜陽」を読んだのは、人生後半だったが
それは、幸運だった思う。


直治の「夕顔日誌」など多感な十代に読んでいたら、、、、、
今は自分はこの世のはいないかもしれない、などと思ってしまう。



人間の業を
詩的に、、、
あからさまに、、、、
節操を感じさせないにもかかわらず
美しい文がならぶ。

気障でもなく、不自然さもなく、、、
太宰治の才能があふれんばかりである。



かず子に託した、生きる強さ
太宰治が本来は生きたがり屋だったと思わせる。


人の持つ外面と内面のギャップを埋め合わせることが
できずに、斜陽する心。




人生を最後まで謳歌する女
疲れ果てて、はかなく死ぬ男。


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